福祉の街 社長ブログ

ピケティ「21世紀の資本」のr>g ~介護報酬改定を前に~

  今月6日に介護保険報酬改定内容が明らかになった。在宅介護重視と言われながら、訪問介護の身体介護基本報酬単価も引き下げられ、事業者にとっては厳しい内容であった。10日セントケア・ホールディングの田村常務のお話を聴く機会があった。田村常務の「今回の改定は事業を行う者にとっては厳しい内容になっているが、良い改定であると理解している。介護の中重度化が進む中で、それに対応できる本物のプロフェッショナルだけが生き残っていく」という話が印象に残っている。

 

(広がる所得格差)

ところで今、フランスの経済学者ピケティの「21世紀の資本」が話題になっている。国会でもアベノミクスの是非を巡って、ピケティが取り上げられた。今回はそのピケティの話をしたい。少々難しそうな話だが、我慢してお付き合い願いたい。

 

ピケティはこの著書の中で、格差社会はますます拡大していると言っている。具体的には米国上位10%の富裕層が総所得に占める割合が、1980年の34%から今や50%を占めるに至っており、所得格差が拡大していると。日欧は米国に比べて格差幅は大きくないものの、予断は許さない状況と警鐘を鳴らしている。

 

その根幹をなすのが「r>g」の不等式である。歴史的にみると、株や債券・不動産などの投資への資本収益率(r)は平均値4~5%で推移し、経済成長率=賃金の伸び(g)の平均値1~2%を上回っている。従って、富裕層は資本の一部を株や不動産に投資することで、賃金の増加と同等かそれ以上に富を増やしていくことが可能である。特に経済成長率(g)が低い今日においては、ますます所得格差が拡大し、その是正が必要であるというのがピケティの主張である。

 ピケティのサムネイル画像

 

r>gの根拠)

さて今日お話したいのは所得格差ではなく、「r>g」の根拠に関してである。ピケティは根拠の一つにIT化の進展で機械が人間の労働に置き換わっている結果、資本の力が強まっている」をあげている。もう少し丁寧に言うと、株や債券で集まった資金は、企業の技術開発・設備投資(機械・ロボット)やIT投資に向かう。そしてそのITやロボットによる自動化が人間の仕事に取って替わる。さらに技術革新によってITやロボットが労働を代替する領域は拡大していく。代替する領域がそれなりのペースで進んでいけば、その生産によって生まれる所得は資本への分配が増え、労働への分配が減る。結果「r>g」となり、それが拡大する。

しかし私が思うに・・・人間の労働が機械やITに置き換わっても、人間がそれ以上に創造的な仕事をして経済成長に貢献できれば、「r>g」は拡大せず、差は是正されるのではないか。機械化やコンピュータ化の本来の目的は「機械やコンピュータができることはそれに任せて、人は人にしかできない創造的な仕事に専念する」というところにあったのではないか。

従って、今日の企業経営においては「人間が機械やコンピュータではできない、より創造的な仕事をする」ことが最大のテーマであるように思う。

 

(今のヘルスケア分野に求められるもの)

私たちヘルスケア分野について考えてみた。医療や介護の世界でも、ITCの導入やロボットの導入により、徐々に効率化が進んでいる。国も後押ししている。しかし、もともとヘルスケア分野は労働集約的な産業であり、また労働が機械に置き換わるという点に関しても、他の産業に比べればまだまだ遅れている。感覚的ではあるが、特に介護分野ではrとgは共に比較的低い水準にあるように思う。

このような段階にあっては、まず「ヘルスケア分野への資本投資」を通じて「機械化やIT投資による労働の代替、生産性の向上」を図り、資本収益率rを高めていくことは、重要なテーマである。

 

しかし、それは私たちの最終目的ではない。医療や介護の従事者の多くは、従来の概念の労働者ではない、いわゆる「知識労働者(ナレッジ・ワーカー)」である。医師も看護師も介護専門職も「高度に専門化された知識を持ち、肉体労働ではなく知識や情報によって社会に貢献する労働者」である。

このような知識労働者は、機械やITにはできない専門的で創造的な仕事を行い、成果を上げられるよう自分を磨かなければならない。自分が責任をもつ仕事において、チームの一員として目標を達成し、組織の成長を高めていかなければならない。それは田村常務が言う「プロフェッショナル」に他ならない。

一方経営も、技術革新だけでなく、一人一人の知識労働者が創造的な仕事に専念できるよう、マネジメントの仕組みを創っていかなければならない。いわゆる「知識経営(ナレッジ・マネジメント)」である。

 

それらが達成できた時、資本投下率rと成長率(=賃金の伸び)gのどちらにも極端に偏らない、そしてより高い水準で均衡するヘルスケア産業が実現できるのではないだろうか。介護報酬改定前に、ピケティの「21世紀の資本」を読み、このようなことを考えていた。

平尾雅司